【インタビュー記事】IceCure社CEOに聞く乳がん治療のこれから

2006年にCaesareaを拠点に設立されたIceCure Medical(2011年テルアビブ証券取引場にて上場 TASE: ICCM)は、長年医療で用いられている病変組織を凍結して破壊する治療法である凍結アブレーションを応用し、がんを効率よく凍結、破壊する技術を開発した。今回はイスラエルのがん治療企業の中でも注目度が高い同社のCEO Eyal Shamir氏にお話を伺った。

INTERVIEWED BY 赤野 健悟 @redinisrael



 

 

 

 

エヤル・シャミール|Eyal Shamir

 

 

Eyal Shamir氏はIceCure Medicalの現CEO。過去にはB-Cure LaserやHanita Lensesを含む、大手医療機器および輸出志向の企業のCEOとして20年以上の経験を持つ経営者。Hanita LensesのCEOとして、Eyalはイスラエルの大手医療機器会社の1社と戦略的協力を開始。これにより、国内市場で売上高が150%増加し、その結果、同社をマーケットリーダーに仕立て上げる。また、グローバル、特に中国と日本の両方で新しい市場にうまく参入するための深いノウハウを持つ。Eyal氏は、The Hebrew University of Jerusalemで経営学および経済学の学士号を、The College of Management Academic Studies in Israelから生物医学のMBAを取得。

 

──Eyalさんは医療や技術畑出身というよりはビジネスサイドの方だと思いますが、なぜ医療領域に取り組むことになったのでしょうか?

私はThe Hebrew University of Jerusalemを卒業の後、米国のU.C. Laserというレーザー関連のビジネスディベロップメントマネージャーとCEOを務めました。

そして、2005年に最初の医療機器企業Hanita LensesよりCEOのオファーを受けました。しかし、その時私には医療関連の知識や経験は皆無でした。それをきっかけにThe College of Management Academic Studies in Israelでイスラエルで初めて設立された医療機器に特化したMBAを卒業しました。結果的に、Hanita Lensesでは事業的に良い成績を収めることができました。このようにして私の医療機器業界でのキャリアが始まりました。

現在、私は医療機器関連では3社目になるIceCureのCEOを務めていますが、同じくして創業者ではありません。その点では、私は起業家ではなく経営者と言えるでしょう。


──IceCureのプロダクトについて教えてください。

IceCureは凍結療法(cryoablation method)自体を開発した訳ではないですが、従来の治療法と比較して、液体窒素を使用したIceCure3/ProSenseでは広範囲のがん細胞を少ないリスクかつ短時間で破壊することができます。それによって、施術も煩雑な手順も少なく、かなり安価かつ正確に安全に行うことができます。我々の主な応用症例は乳がんと乳腺線維腺腫治療です。今までは乳がん治療といえば乳房の除去というのがメジャーな選択肢でしたが、アメリカでは一回につき患者は$15-20000を支払わなくてはならないところ、我々の技術を使用することで$4000で済みます。また低侵襲性手術なので患者さんの身体の負担も軽減することができるようになりました。手術後も患者さんはすぐに退院することができます。


2014年を皮切りにこれまでアメリカで18病院208名の患者を対象に臨床研究を行なっており、結果的にFDAとCEともに取得しています。
また日本では、亀田メディカルセンターでMIS(低侵襲手術)の権威である福間先生と共同研究を行い、再発率は1%以下という結果を得ています。

そして、昨年2018年10月にはアメリカのASBS(The American Society of Breast Surgeons アメリカ乳がん専門医協会)がIceCureのテクノロジー・治療法を乳がん治療のガイドライン上にアップデートしました。これは我々とっても乳がん治療法においても大きなブレイクスルーです。

現在では、我々のプロダクトは低コストかつ必要な機材などが少ないということでアフリカの一部の国でも導入されています。


──事業内容は過去にピボットしたのでしょうか?

はい、腫瘍の治療という点では領域は同じですが、着目点は変えました。IceCureは創業当時、乳部の良性腫瘍の治療に特化したソリューションを開発しようとしていました。これに該当する腫瘍を持っている人は日本でも9万人いると言われています。しかし、大抵の良性腫瘍は何かしら術的処置が行われるというより放置される傾向があるので、それほど市場は大きくないと判断され事業をピボットするに至りました。


──IceCureのプロダクトが競合と異なる点は何なのでしょうか?

凍結療法に関しては30年以上前から存在しています。あまり知られていませんが、実は凍結療法はイスラエルで開発された治療技術でした。既存の凍結療法は高圧ガスであるアルゴンヘリウムを使用することで患部を超冷却するというもので、ガレリ湖周辺で創業されたGalil medicalという企業が開発しました。同社が開発したのは、当時イスラエル軍でミサイルを冷却するためにアルゴンヘリウムが大量に使用されていたことから応用された方法です。Galil medicalを皮切りにUSのEndocareを始め、多くの企業が商品化してきました。

現在、この治療法は前立腺がんや腎臓がんに使われていますが、問題点もあります。アルゴンヘリウム自体の価格が高いということと人体に有害な物質なので、保管や使用するために病院で別の部屋が必要となります。また、病院内で気化させるプロセスも煩雑という面で色々コストがかかります。



それに比べて、我々が採用している液体窒素は安価で入手しやすく、取り扱いも簡単です。具体的には、アルゴンヘリウムの場合ガスだけで3-400ドルかかりますが、液体窒素だと一回の処置に1ユーロしかかかりません。

また、液体窒素では必要となる超低温(0K)に到達するのも数分と早く、がん細胞を破壊する範囲も広いので、既存の方法では4本のプローブを挿入しなければならないところを、IceCureでは1本で済みます。つまり、施術プロセスもシンプルになり、侵襲性を極限まで低くすることに成功しました。


──今のところ日本を含め各国で、冷凍療法は比較的小さい腎細胞癌や乳がんぐらいにしか第一選択で使用されていません。これまでIceCure社が凍結療法の性能向上に取り組んで来られたと思いますが、他の癌とかにも適応を拡大できるビジョンはありますか?

まず、凍結療法が完全に第一選択肢になることは考えにくいですが、よりメジャーながんの治療法になることは間違いないでしょう。

乳がんに関していえば、現在取られる処置は残念ながら切除が多いです。これは女性の身体と精神共に負担が大きいですし、費用も15-20,000ドルもかかってしまいます。一方で患部を高温で焼き切る高周波アブレーションは術中に痛みを伴うことが多い。しかし、IceCureは4,000ドルで手術を受けることができますし、身体への負担も少なく済みます。

他にも、我々は画像下治療(IVR)への応用開発にも力を入れており、近いうちに腎臓、肺、肝臓、骨、前立腺などのがんに対しても 、IcuCureの治療法が使用することが可能になるでしょう。


──以前に他の企業で日本との取引を行なっていたとお伺いしましたが、今後IceCure社としての日本での展開戦略や医療機器承認について教えてください。

日本でのPMDAによる薬事承認はまだ取れていません。目下取り組み中でまだしばらく時間がかかるでしょう。日本はがん治療においても重要な市場ですので、薬事承認プロセスをサポートしてくれ、全国的に流通してくれる医療機器代理店を探しています。

なので、現状日本ではDLI(一般的に「医師免許による個人輸入」や「ドクターズライセンス インポート」等といわれているもの)という形で2病院と契約しており、6台のIceCureデバイスが稼働しています。日本のように正式な薬事承認を受ける前にDLIで市場に流通させることができる国は多くないですし、医療が進歩しており医師のレベルが高く、ヘルスケア産業の潜在的需要も高い日本は我々、医療機器企業は見逃すことのできない市場だと思います。

 

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