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【インタビュー記事】大腸ガンの早期発見から栄養指導まで、うんこの可能性 OutSense

2016年に設立されたOutSense Diagnosticsは、ユーザーの排泄物に含まれる潜血を検出し、大腸ガンの早期発見を行うIoTセンサーを開発したスタートアップである。今後Outsenseのプロダクトは大腸ガンの早期発見にとどまらず、ユーザーの健康状態を分析し、ユーザーに適した食事のプランを提供する予定である。今回はそんなOutsenseを起業したIshay Attar(イシャイ・アター)氏にお話を伺った。Attar氏は他にもすべて医療分野に関わるスタートアップを4社起業し、シリアルアントレプレナーとして活躍する。

INTERVIEWED BY 赤野 健悟 @redinisrael

── Ishayさんの遍歴について教えてください。

私はエンジニアであり、アントレプレナーでもあります。イスラエル工科大学ではバイオメディカルエンジニアリングを勉強し、卒業後は大腸ガンの早期発見のためのIoTセンサーを開発したOutsenseをはじめ、4つの企業を立ち上げ、BioChangeの取締役も務めています。過去にはVCに勤め、主にシード、アーリー期のヘルスケア業界に投資をしていました。

また、私は四人の子どもの父でもあります。四人も子どもがいることはイスラエルでは普通で、OECD国の中でも非常に高い出生率とイノベーションの多さは関連していると思います。子どもがいると、自然と彼らの未来について、また、彼らに何を残せるか考えさせるため、イノベーションやアントレプレナーシップにも結びついているのではないでしょうか。

TAUB CENTER (http://taubcenter.org.il/why-are-there-so-many-children-in-israel/)

── OutSenseのプロダクト、及びチームについて教えてください。

Outsenseのプロダクトは、便内の潜血を自動的に検出します。大腸ガンの早期発見ができるため、便内の潜血の検出は多くの命を救うことができます。残念ながら、大腸ガンの早期発見は今のところあまりなされていません。日本では毎年約50,000人の方が大腸ガンで亡くなります。また、日本国内での大腸ガンによる死亡率はアメリカの3倍にも及びます。これは日本では高齢の方が多いことと、日本食に含まれるなんらかの栄養素によるものだと考えられており、現在研究が進んでいます。

いずれにせよ、問題は、大腸ガンが早期に発見されれば簡単に取り除くことができ、生存率も飛躍的に伸びるのも関わらず、血液検査や検便が頻繁に行われていないことです。そのため、私たちのプロダクトが自動的に毎日便のスクリーニングを行うことは大腸ガンの早期発見に繋がり、結果的に多くの命を救うことができると考えます。データによると、もし人々が潜血の検査を毎年すれば、大腸内視鏡と同じぐらいの効果があると言われています。

私たちのセンサーは、トイレに直接取り付けられます。電池式で稼働させることも可能ですが、トイレの電源に接続されていれば、トイレが壊れるまで使い続けることができます。なので、現在はある大手トイレメーカーと協力し、トイレのシステムそのものに私たちのセンサーを統合するプロジェクトを進めています。

私たちのゴールは、大腸ガン患者の命を救うことだけでなく、治療コストの削減にもあります。ステージ IIIもしくはIVの大腸ガンを治療するのには$60,000ほどかかる一方で、ガンをステージ I で発見し治療できれば、治療コストは$10,000に抑えられます。なので、便の自動スクリーニングによる大腸ガンの早期発見はコストの削減にも繋がります。

また、同じセンサーでも異なるアルゴリズムを使うことにより、各個人の食事を分析し、パーソナライズされた栄養素に基づく食事を勧めたり、脱水症状の際に水を飲むよう勧告したりすることが可能になります。人によって特定の食べ物が腸内で炎症を起こすことがあり、これを発見することもできます。このように、私たちのプロダクトはヘルスケアだけでなく、食事に対するフィードバックなど、ウェルネスの領域にも関わっています。

Outsenseのセンサーを開発する我々のチームは、生物学者・医療デバイスのエンジニア・画像処理のスペシャリスト・システムエンジニア・医師などから成る、10人以下の小さなチームです。

── 大学ではバイオメディカルエンジニアリングを勉強されていたとおっしゃいましたが、なぜヘルスケアの領域に取り組むことになり、さらにその中でもなぜ便に着目したのか教えていただいてもよいでしょうか?

元々大学でバイオメディカルエンジニアリングを学んでいたのでヘルスケアには興味がありました。

便に着目したのは、少し変わっていますが、2006年に見た”The Island”という映画の影響です。”The Island”は人間の臓器の替えをつくるために、一人一人の人間のクローンを作成し、ハイテクの施設で育てるというSF映画です。そのハイテクの施設では、クローンを完璧にコントロールするために、クローンの排泄物を逐一スキャンしており、私はそこからアイデアを得ました。

もちろん当時はそのアイデアを可能にするようなIoTやAIなどのテクノロジーは発達しておらず、光学センサーも高価すぎました。やっと技術が追いついた2015年にOutsenseを起業することができました。

── どうしてイスラエルでは現在ライフサイエンス領域、特にデジタルヘルスが熱を帯びていると思われますか?

規制の負担が少なく、成果を測ることができ、ヘルスケアに変革をもたらすからでしょう。ヘルスケア業界全体の動向として、従来の集団的な治療法から、ターゲットを絞った、より効率のいいシステムに移行しつつあります。例えば、私たちの場合は、時間とお金のかかる大腸内視鏡の回数を減らし、多くの人々を短時間でスキャンすることで、より効率的な診断システムを可能にしています。

── Outsenseのプロダクトと既存のソリューションとの違いは何だと思われますか?

既存の診断ソリューションとの違いとしては、便を触ったり、サンプルを採取し提出したりする必要がなく、全て自動でスキャンされることが挙げられます。また、臨床試験は一年に一度しか行われない一方で、私たちのセンサーは毎日スキャニングを行います。自動的かつ光学的にサンプルを獲得し、クラウドに送り、そこで分析します。全て機械により行われるため、何もする必要がないのです。

先日、私たちのプロダクトが臨床試験と同じぐらい正確だというデータが得られました。将来的には、私たちのプロダクトが臨床試験よりも正確だということを証明したいです。

── Outsenseのセンサーはどのようにセンサリングしているのでしょうか?

Outsenseのセンサーはマルチスペクトラルセンシング技術を使用しています。カスタムメイドのCMOSセンサーを使用して光学的に情報を収集し、ユーザーのデバイスのアプリケーションに結果を報告します。アプリケーションはわかりやすく設計されており、ユーザーは食べたものなどの情報を入力する必要が一切ありません。あと1年ほどで開発されるAI技術により、便のスクリーニングからのみで食事の勧めを提供するサービスが可能になります。

── Ishayさんは日本大使館と積極的にコミュニケーションをとったり、日本語の名刺を作られたりされてますが、なぜ日本のマーケットに注目されているのでしょうか?

日本の大腸ガンの患者数が多いのと、日本ではトイレの技術開発が非常に進んでいるからです。日本のトイレメーカーはイノベーションにも積極的で、ハイエンドのトイレの開発に取り組んでいます。何より日本人はハイテクトイレが大好きですから(笑)。

数年前には日本で未来ベンチャーズというスタートアップのコンテストに参加しました。毎年行われている未来ベンチャーズのコンテストの中でも、私(Ishay)が唯一の外国人でした。

── 日本人とコミュニケーションを取る中で、何か違いや課題など感じられることはありますか?

一つは、気質の違いがあると思います。ものの考え方が異なるので、日本の大企業の判断プロセスを理解するのに非常に苦労します。彼らの考え方はあまり私たちにははっきりわからず、一緒に仕事をするのには多くの時間と我慢を要します。私たちはすぐに決断と成果を出すのに慣れていますが、日本では決断を下すのにとても時間がかかるように思います。

また、言語の壁も課題です。イスラエルでは働いている人口のほとんどが英語を話せるのに対し、日本では英語を話せる人間が多くありません。なので、コミュニケーションをとるのに苦労します。なので、いつも必ず仲介者が必要となります。イスラエルには日本でのコミュニケーションや案内を手伝ってくれる業者が複数います。ですが、そのような苦労を伴っても日本とはビジネスをしていく価値があると私は思っています。

(余談)

最後に私赤野のiPhoneのポートレートモードで写真撮影を行おうとしたら、

「iPhoneのポートレートモード作ったの俺の弟だよ。」とまさかの発言。

よくよく話を伺うと、弟のZiv Attar氏は2015年にAppleに買収されたLinx ImagingのCEOで、現在はシリコンバレー在住だそう。これもまたイスラエルが起業家大国、みんなが当たり前に使っている技術の元を辿ればイスラエルが多いといういい例だろう。

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